あなたが営業や商品企画に関わる仕事をしていたなら、自社製品の価格について悩んだことがあるのではないだろうか。高すぎたら買ってもらえないし、安すぎたらミスミス利益を減らすことになる。
しかし、もしもその価格を顧客が勝手に決める、となったらどうなるだろうか?もちろん、無料で売ることも含めて、だ。
そんな怖いこと、よっぽど自分のところの商品に自信がないとできないのではないだろうか。
そんな試みをしたロックバンドがある。イギリスのロックバンド、radioheadだ。
今回は、一度はしてみたい自信満々の値段設定の考え方についてご紹介したい。
Contents
時代背景とradioheadの簡単なご紹介
時は2007年。インターネットで音楽の楽曲配信が徐々に盛り上がってきた時代だ。日本では2002年にコピーコントロールCDが登場し、各レコード会社が違法コピーを取り締まろうと躍起になっていた頃。2005年にApple Music Storeがオープン。GoogleがYoutubeを買収したのが2006年なので、音楽や映像をインターネットで楽しむことがまさに盛り上がってきた頃だった。
そんな時にリリースされたのがイギリスのロックバンド、radioheadの6枚目のオリジナルアルバム「In Rainbows」だった。
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radioheadとはイギリスはオックスフォード出身のロックバンドだ。メジャーデビューは1992年。同時代の有名なロックバンドといえばoasisが有名だが、労働者階級のエネルギーに満ち溢れ、体育会のノリだったoasisに比べると、radioheadはインテリジェンスとコンプレックスが動力源とも言える、文化系バンドだった。
トラディショナルなギターロックバンドとは一線を画し、エレクトロニカとロックを融合させた「OK Computer」や、ロックバンドなのにギターを放棄し、遂に自己主張をやめてしまった「Kid A」などで話題をさらった。
「何か新しいことを行う実験的なバンドなのに最高」というロック界に唯一無二のポジションを確立したバンドだ。
ビジネスとしての意味合いとコンセプトメッセージの両立
というわけでこの「in rainbows」。いつも何か斬新な取り組みを行うradioheadが仕掛けてきたのがこの「値段をユーザーが決める」という販売方式だ。
CDで発売されることを発表しつつも、それよりも前にオフィシャルサイトでダウンロード版を先行リリースし、そのダウンロード版の価格が「up to you(あなた次第)」だったというわけだ。もちろん、一銭も払わずにダウンロードすることもできてしまったので、音楽業界は話題騒然となった。「やっぱradioheadって斬新!!」とみんなが思ったものだ。
結果から言うと、ダウンロードされたすべてのデータのうち、60%が無料ダウンロードだったそうだ。有料で購入した人たちの平均購入額は全世界で6ドル。通常、CDアルバムが12ドルくらいだと考えると半分の価格でダウンロードされたということになる。
さて、ではなぜこのような手法をとったのか。これには主に二つの意味があったとされている。
冒頭に記載した通り、この時期はインターネットコンテンツ流通前夜とも言える時代だった。違法ダウンロードなども横行し、それを防ごうとする企業とのイタチごっこが横行していた。アーティストがいないところで違法に無料でダウンロードされるくらいなら、アーティスト自らオフィシャルでやってやろう、と。
そして古きよき流通スタイルからの脱却も実験的に行われた。レーベルやレコード会社、そして取次、CDショップなど多くのプレイヤーが介入していたのがそれまでの流通スタイルだったが、アーティストがユーザに直接的にコンテンツを届ける方法を実験したのだ。音楽性という意味で常に革新的だったradioheadだが、音楽性だけではなく流通のあり方にも革新を起こしたといえるだろう。
そしてもう一つが公式サイトの価格表に書かれた「Up to You」の一言。つまり、未来は君たち次第だ、というメッセージがこの流通スタイルに取り込まれている。さすがアーティスト。
当時、実際僕もこれをダウンロードするときに結構迷った。だって本当に無料で手に入れられてしまうのだ。しかし無料でダウンロードすることに謎の罪悪感を覚えた。結果的に、確か500円くらいを課金して買った。僕の場合は後日リリースされる予定だったCD版も買うから、500円で許してくれ、、とか思った記憶がある。
このように、ものを手に入れるときに意志を問われる体験は新鮮だった。提示された金額を支払う、ではなくいくら支払うかまで自分の意思で決める。まだこの時にVUCAの時代とかキャリア自律みたいな言葉は世の中に出てきてなかったと思うが、自らの意思で自分の人生の選択をさせる体験をパッケージにしたのだ。さすがradioheadと唸ってしまう。
自信がないとこれはできないよね
というわけで、商品の価格決定をユーザーにしてもらったradioheadの仕事を簡単だがご紹介させていただいた。マーケティングでもプライシングは非常に悩ましい検討事項の一つだと思うが、それをユーザの手に委ねてしまうんだからかっこいい。
でも、これは相当自分達に自信がないとできないことだよなあと思う。作品のクオリティに対する自信もそうだけど、世間から自分達がどう思われているかをよくよく理解してないと、こんなことできない。
ちゃーんと世の中から評価されていないとできっこないもんね。
いや、本当に、憧れる。
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